随分長い事放置しちゃったんで、何か書いてみます。

以前、K社に入った経緯を書いたけど、先輩の話によると、オレ実は落ちてたんだそうで。
サウンド応募者の中に一人、プログラム言語までわかる人がいたらしく、ただそれだけの理由で社長が「じゃあその人で決まり」って事にしちゃったらしい。
でもその人、別の会社にも受かっちゃったそうでK社に断りの電話が入り、そのおかげでオレが繰り上げになったっつー。そんなオモシロくない話もあったりする。

まぁ、そんなこんなで、オレは初代サウンドクリエイターとなったもんで、それ以降はデモテープの審査をしたり面接をしたりという立場となった。
入社して1年半ほど経って、いよいよサウンド2号を採る事になって求人を出したら、そこはサスガ人気業種ですよ。デモテープがいっぱい送られてきたが、どれもパッとしなかった。
中には音大生もいて、音大というオレごとき雑草には到底くぐれない門を通過してきたエリートは一体どんな曲を書くんだろうと期待して聴いてみたが、まあそこはやっぱり学生ですよ。プロとして即戦力とは行かず、将来性もイマイチなのが実状だ。
つーか、その点については、オレは相当厳しかったかも知れん。
その頃のK社はぼちぼち大きくなりつつあって、ただそれとは引き換えにオレが入った頃の少数精鋭っぷりは弱まっていき、次第に烏合の衆と化しつつあった現状がどうにも気に喰わなかった。
他の部署のようにおめおめとクオリティーを落とすような真似を、我がサウンドチームだけは絶対にしねえぞという変な意地があったし、才能の見極めを誤って採用するなどという、プロとして恥ずかしい事が出来るかっつー思いもやたら強かった。
そんな折、社長がやって来て「誰かいい人いた?」と訊いてきたから、現段階で一番マシなのは「富士通の人」ですかねえ、と軽いキモチで答えた。
応募者の中に「富士通音楽コンペ、優秀賞受賞曲!!!」なんて大風呂敷を拡げて売り込んで来た人がいて、まぁ優秀賞と云ってもやっぱりシロートの域だよなあと思って見送るつもりでいたら、後日社長が「富士通の人、採ったぞ」と云ってきた。
えええええ、採っちゃったのおおお???
せっかく穴の無いサウンドチームを結成したかったのにー、と失望したが後の祭りである。

オレはコンポーザー仲間に恵まれていて、作曲レベルの高い人達に囲まれた。
彼らを悟空やベジータとすると、その富士通の人にはミスター・サタンほどハマる例はない。
サタンさんがK社に来た初日、同じフロアの人達をいきなり呼び集め、自分が前の会社で監修したという音楽ソフトを得意満面でプレゼンし始めたんだから、一同唖然とした。もちろんそんなの誰も興味無いから、開始3分で一人減り二人減り、5分後にはオレと2人きりになってしまった。でもオレもヒマじゃないから自分の業務に戻りつつも、一人寂しく片付けをするサタンさんの後ろ姿を優しく見守ってあげましたよ。
入社して程なくすると、シオダ君ちょっと聴いてくれる?と云って自作曲を聴かせ「コレ、いい曲だと思わない?」なんて事を臆面もなく云う。そーゆートコは所詮オレごときには生まれ持っていない天性の武器だ。
ただ、オレは基本的に、嘘は付きたくない男である。
分かってます。説得力ないのは分かってます。でもオレが云う嘘は俗に云う「ボケ」と云うヤツで、些細な笑いを提供する事だけを目的とした、最終的にバレる事が大前提のモノであって、他人を騙す類の嘘はガチで大っキライなんです。
しかも、音楽に対しては特に嘘がつけない。それが自分の評価にも直結する事になるからだ。
なので生憎な事に、サタンさんの期待通りにウンと云った事は無い。
そんな事を繰り返していたある日、またまた「シオダ君、ちょっと聴いてくれる?」がやって来た。
聴いてみたらコッテコテのハワイアンの曲で、コレはちゃんと雰囲気出てると素直に思ったから「おー、サマになってますねえー」を通常の1オクターブ上で云ってあげたらプチ興奮して「いやー、こーゆーのはもう血になっちゃってるんだよねー。オヤジが好きで昔っから聴かされてたからさー、もう血になっちゃっててさー」と血になってるを繰り返し云って喜んでいた。
とは云え、オレも結局「イイ」とは云ってないというなかなかの鬼畜ではあるんだが、それを境に「ちょっと聴いてくれる攻撃」が無くなったのは幸いだった。
つーか、ゲームとは全く無関係なハワイアンを作ってまでして、オレに力を誇示したかったんかい。

そんな自分のアピールが済むと、今度はオレの曲を聴いちゃあ「シオダ君、この曲のコード進行どーやってんの?」と訊ねてくるようになった。
プロなんだからそのぐらい自分の耳で理解しようよー、と思うものの、やっぱり同じ釜の飯を喰う仲だし、意欲があるのはとても良い事なので教えてやる。
ところで、オレは自分の曲のコード進行なんてモノはいちいち憶えてない。
そーゆーものをルーチン化してしまうと、応用の効かないヤツになってしまいそうで怖かったので、敢えて憶えない事にしている。だからコード進行を訊かれる度に自曲を耳コピして教えてやる事となり、忙しい時なんかなかなか面倒だった。
ところでサタンさん、ゲームというものに関心があるという話を一度も聞いた事が無い。
作曲という仕事に憧れるのは自由だが、その作曲でメシが喰えるならこの際ゲームでもイイや、みたいな節があった。だから当然、ゲームにマッチした曲なんて出来やしない。
入社して長い事、的ハズレな曲を作り続けてボツの嵐が吹き荒れたが、その間「何だよ、せっかく人がいい曲作ってやってんのによ」なんてすでに怒り方が一丁前なんだから恐れ入った。

サタンさん、社長とは一緒に飲みに行ったりしてて、なかなか上手く行っていたようだった。
ある日、社長と2人で談笑しながらサウンドブースに入って来ると、珍しく社長がオレに「今作ってる曲を聴かせてくれ」と云ってきた。オリビアの音楽を作ってた時だった。
何度も云ってるが、オレは制作途中の曲を人に聴かせるのが大っキライである。
キテレツな進行をしたがるという生来持った悪癖のせいで、未完成の段階でシロートが聴いても理解してもらえず、必ず「この曲おかしい」などと文句を云われるからだ。
でも仕方ないからしぶしぶ聴かせると、社長はサタンさんに「どう?」と訊き、返ってきた言葉は「うーん、ココの部分がちょっと」という、シロートの口から散々聞かされてきたモノだった。
普段机を並べて仕事をしてるんだから、お互いの力関係はハッキリ解っている。なのに、相手がシロートでしかも権力者と来た日にゃあこんなにも大きく出るものかと呆気に取られるばかりだった。
逆に、2人きりの時とか酔っぱらった時などはよく「シオちゃんはスゴイよ。ホント才能あるよ」などと云ってきた。でも大抵その後に「オレも才能あるでしょ?」って訊いてくるのが面倒臭かった。そして、そんな時もバカ正直なオレはウンとは云えなかった。
このサタンさん、結局2~3年で退職した。アイドルの作曲家になりたいと云っていた。
でも数年後、某ゲーム会社に入って某有名ゲーの音楽を担当し、ゲーム業界では依然としてどマイナーなままなオレとは比べものにならない程の大成功をした。
やっぱり有名になるには、あのぐらいの神経の太さが必要なのかも知れん。

サタンさんが居なくなってから1年ぐらいは一人でやっていたけど、やっぱりこのままじゃあキビシイんでもう一人増員する事となったが、オレは人事担当者の悩みの種と化した。
応募がいくら来ても、オレが一向に首を縦に振らなかったからだ。
「今度こそ鉄壁のサウンドチームに」という思いが今まで以上に強まってしまい、中庸な応募者を片っ端から切りまくってたから、シオダは全然人を採ってくれないと文句を云うようになった。
最初は意に介さなかったが、オレも一応人の子なんで、いい加減決めてあげないと人事君も可哀想かなあと思い始めたところへやって来た応募がですね、専門学校の後輩の女の子で、オレが通ってた高校の近所に住んでいて、しかも先方もウチの近所の高校の出身で、曲もそれなりだったから面接をしたら、まあローカルトークが弾んだ弾んだ。
ってな訳で、その子を採る事に決めた。こーゆー華があるとみんな喜ぶからねい。
で、募集期限が終了した翌日、人事のところへ「決めたよ」って云いに行こうとしたら先に向こうがやって来て「一日遅れだけど、応募が一通来ました」って渡されたのが、阿保君のテープで。
もちろんその子を泣く泣く落としましてん。そりゃあ阿保君には敵わないっすよー。
これも鉄壁のサウンドチームを結成する為には、仕方のない事なのだ。
でもあの子なら大丈夫っしょ。次に受けるトコで引っかかるだろうから。などと思いつつ。

専門学校で一緒に組んでたキーボードの相方は凄まじい才能の持ち主で、前述の悟空とかベジータに該当する。
彼も、オレがK社に入って間もなく、別のゲーム会社に入った。
そもそも、プレイヤーとしてもメチャメチャ上手かったから、学生の頃から先生に仕事をアレコレ振られていて、その中にゲー曲の仕事もあったんだそうで、その流れでこの業界に来る事になった。
でも数年後に会社が潰れてしまい、就職活動を経て別のゲーム会社に職を得たところ、同日に入社した中にですね、その女の子がいたという。
あの子、ホントに次に受けたトコで引っかかっちゃったらしい。
いつだったか、その相方と待ち合わせて一緒におもちゃショーに行ったら、その子とバッタリ会っちまった。そして「私、何で落ちちゃったんですかー?」なんて詰問されてまあ困った困った。
でもその後は、引き続きローカルトークで盛り上がっちゃったりしてね。オレが高校の時に仲良しだったヤツの妹とは大親友だとか、ウチの向かいに住んでる年下のガキが高校の先輩で好きだったとか、大した面識も無いくせに世の中の狭い話ばかりしてたっつー。

相方君、その新しい会社ではサウンドのチーフに才能を妬まれたような部分があったらしく。
ある日「自分が面接した中で、君は2番目だ」と、いかにもオマエは一番じゃない的な云い方をされたんだとか。
そこで、じゃあ一番はどんな人なんですか?と問うたら何と、サタンさんの名が出て来たと云う。
どうやらサタンさん、前述の某ゲーム会社に入る前に、相方君と同じトコに応募して、チーフにそこまで云わすぐらい楽勝でパスしてたらしい。
そんな流れで、相方君が「シオちゃんその人そんなに凄いの?」と訝しがって訊いてきた。要はチーフの人物が小さいってだけな話だが、どうもゲーム業界には時々そーゆーやっかみが存在するんだから面倒くさい。
ちなみに例の女の子はおもちゃショーで会った時、そのチーフからのセクハラ三昧に困っていると散々こぼしていた。何とも情けない話である。