以前、コナミに応募した話をした事だし、そこからK社までの道のりなんぞをひとつ。

専門学校を卒業した後はバンドでプロになりたいなーと思っていたから、バイトをしながら何だかフワフワ生きてましてん。
バンドと云ってもまぁ、キーボードの相方とベースのオレという2人しかいなかったから、正直バンドの体を成してはいなかったんだけど、ただ2人とも双方の力量を認め合ってたから、オレらが組んで上手く行かない訳が無いっつー変な自信があったおかげで、大した焦りも無くフワフワしていた。
ところが困った事に、うちのオヤジってのは昔っから金銭面に難のあるヤツで、おかげで我が家は慢性的に生活が苦しく、オレもあんまり悠長に遊んでいる訳にも行かなかったから、一応毎週フロムエーだけは欠かさず読んでいた。
もちろん、専らゲーム会社狙いである。でもサウンドの求人ってちっとも出て来なくてねい。
こんなんだったら、コナミで真面目に面接やっておけばヨカッタなー。後悔先に立たずであり。

そんなある日、ようやくサウンド募集を見つけた。御徒町のU社というトコだ。
早速履歴書と自作曲のデモテープを送付したら、程なくして面接に呼ばれたから勇んで乗り込んだ。
コナミは立派な自社ビルを構えてたのに対し、ココは雑居ビルの1フロアを借りてやっているモンだから、逃がした魚の巨大さを痛感せずにはいられなかった。
そして、いざ面接に臨んでみたんだが、担当者の開口一番を聞いて唖然とした。
「実は、今回募集したのは効果音のスタッフで、作曲じゃないんですよ」
意味ないやん。自作曲のデモテープの意味ないやーん。
募集要項にハッキリと書いてあるぜ、自作曲のデモテープを出せって。だったら面接の連絡くれた時に一言そー云ってくれればいいのに。何だか、ここへ来て急にどんでんを返された感ですよ。
思いっきり怪訝な顔をしていたら、さらに続けて「例えばアナタ、FM音源でウルトラマンのシュワッチ!っていう声作った事ありますか?そのくらいの腕が無いなら今回は無理ですね」ですと。
だったら最初っから、効果音スタッフ募集、要FM音源でシュワッチ相当の技術とか書いとけや。
雇ってもらえるともらえないじゃあ雲泥の差だからこの際効果音専門でも良かったのに、そんな感じで呼びつけておきながら一方的に拒否されちゃったという、何とも解せない落選劇である。

次に見つけたのは、飯田橋のA社というトコ。この時すでに夏で、暑い中スーツで出掛けた。
ソファーに座って待っていたら、何だか馴れ馴れしい女がドッカと隣に座ってきて「こんにちわー!」なんてオレに絡んできた。キャバクラかココは?
とりあえず、はぁ、どうもと頭を下げてまた正面を向き直って、5秒ぐらい経ったところで思わずひっくり返った。専門学校のクラスメイトでやんの。
まさか、こんなトコで会うなんて思ってもみなかったからオレのシナプスも油断しきりで、モロにマンガみてえな反応しちまったよ。
何でも、3ヶ月前にサウンドで入ったとの事で、その話を聞いて正直、貰ったと思った。
ちょっと前まで机を並べていた同士が入社できているんだから、オレも大丈夫に違いない、と。
そんなところへ、サウンドのチーフらしき人が入ってきて面接が始まった。
ココではまず最初に、本人がいる前でデモテープを聴くというなかなか恥ずかしい展開が待っていて、何故かその同級生と、同じく3ヶ月前に入社したとかいうオトコまでちゃっかり同席して聴いてたんだが、2人揃って「おおー、スゴイ」なんて云っている。
そんな感じだから、チーフと2人きりで話を詰める頃にはいい返事を期待していたんですが。
「実は、今回募集したのは効果音のスタッフで、作曲じゃないんですよ」
いやいやいやいやいや、曲を聴いた途端それはオカシイでしょ。しかもオレ、ココの新人のレベル知ってるし。
「確かに彼らよりも、アナタの曲の方がイイですよ。でも彼らはすでに3ヶ月先に入っている。この3ヶ月のキャリアというのは、すでに逆転不可能なぐらいの差なんです」
そんなのデタラメな事ぐらい判る。でも未経験者にはそれがデタラメだと云える程の経験がない。
そして帰り際に「もしかしたら、外注として作曲の依頼をするかも知れないので」なんて云われたが、業界の事など何も知らない未経験者だけに、そんな話が来たって請けれる訳ねえぢゃんかと思い、ただ浮かない返事だけして帰ってきた。

そーやって2件立て続けに落とされた後、もおゲームサウンドなんか絶対やるもんかと決めた。バカバカしい世界だと。そして、それを境にフロムエーを買うのも止めた。
ところが数ヶ月経つと、オヤジが積み重ねた借金がいよいよ深刻化してしまい、今すぐにでも就職しないと生活して行けないぐらいの惨状に陥ってしまった。年貢の納め時ってヤツである。
この際、職種なんか選んでる場合じゃない。もぉ何でもいいから就職しちまえという覚悟で買った、オレにとって生涯最後のフロムエーに載っていたのが、K社だった。
「サウンド募集を見たんですけど、どーせ効果音だけなんでしょ?」
「いえ、作曲と効果音の両方をやる方を募集してます」
「え、そーなんですか?でも、パソコン触った事ないんですけど」
「その点はうちのスタッフが教えますから、大丈夫ですよ」
こいつぁ行くしかねえでしょう、と早速応募して、後日面接に行ったら、社長が不在だった代わりに制作部長の井上さんと面接をしたんだが、これがテキトーでねえ。
「タバコは吸いますか?」「吸いません」「酒は?」「飲みません」「彼女はいますか?」「いません」「童貞ですか?」「ソレ、関係あるんすか?」「いや、あるんですよ」
ゲーム業界に入って分かったけど、確かに多少は関係あった。
ここでも本人の前でデモテープ鑑賞という恥ずかしめを受けたが、一応好評だったから救われた。
そんな面接を終えて数日、社長から再度面接がしたいと電話が来た。これは事実上の入社案内だと思って、よっしと拳を握った。助かった。しかも命拾いした先が第一希望の職種ときた。
社長と話をして分かったのが、今回はK社としては初のサウンドスタッフの募集だったとの事。成る程、どうりでしょっぱい先輩の嫉妬的なアレも無く選んでもらえたのか。
そして、パソコンとか諸々未経験なんデスと打ち明けてみたら、外注に中潟さんという人がいるから、最初の3ヶ月はそこに研修に行ってもらうと云われた。
でも実際入社して、最初はやる事が無くてヒマだったから、サウンドデータを睨んでるうちに使い方が大体わかってきて、初めて中潟さんと会った時にはすでに実機で曲を鳴らせてたおかげで、弟子入りの話はポシャってしまった。
つーか、その頃にはすでに戦力として扱われており、ファミコン版ブライファイターの全サウンドをゲームボーイに移植しつつ、Low G Manチームにヘルプで入って何曲か提供しながら、Isolated Warriorのサウンドをほぼ一人で仕上げた頃、入社して3ヶ月が経過していた。
なるほど、3ヶ月ってのは大した期間だ。
その3ヶ月で、3ヶ月前に入ったアレな先輩を抜き去る事すら可能なぐらいだもんな。
つーか、スーファミ以降ならまだしも、ファミコン全盛期に効果音だけのスタッフてー。
オレは結局、K社で10年間全サウンドを一人でやってきたから、あの時代に効果音専門ってどんだけ怠けるつもりなんだよと思う。