オレはホントに不運なヤツだと思う。

10年ほどゲーム音楽を作っていたものの、結局ヒット作に恵まれなかった。
オレが入った頃のK社は良かった。社長含めて総勢10名しか居なかったけど、いかにも少数精鋭って感じの陣容だった。
グラフィックは4人しかいなくて、でも4人ともかなり上手かったから絵に関してはハズレが無く、この頃のK社と云えば「グラフィックがイイ」事で評判だった。
プログラマも例のヤガワ君以外にもすんごい人がいた。初期の主要タイトルの大半を手がけた外注さんなんだが、オレが入社した時点で若干18歳の東大生であり、少なくともその一年近く前からK社の屋台骨を支えてたんだから、何ちゅー天才少年なんだろうと。
サウンドはオレ一人しか居なかったけど、外注に高濱さんという天才も控えていたし、お陰様で程なくしてK社のゲームは「他がダメでも、サウンドだけは」と評されるようになりましてん。
ただコレ、ホメ言葉でも何でも無いんです。少なくともオレにとっては。
「キミ、頑張ってるねえ。誰も買ってくれないのに」って云われてるも同然なんだもん。
そんな感じで、K社が組織的に大きくなっていくにつれて、戦力的には物足りないモノとなっていってしまった。
ヤガワっちも「ウチでまともなのは、サウンドだけだ」なんて嘆いてたし。

そんなゲーム制作会社であるK社にある日、音楽だけの依頼が来た。極めて珍しいパターンだ。
「ストーリー付きの動画パズルに曲を付けれ」との事で、この話が来た時点でシナリオと全ステージ分の絵のデータが手元にあったから早速拝見したら、ヤに興奮した。
ちょっと童話チックで独特な世界観のシナリオとか、滑稽ながらも妙に味のある絵とかを見てたら、コレは絶対にK社では作れない種類のモノだって思って、俄然ヤル気が出た。
早速、トルストイの民話集とかを読みまくって、インスパイアされたてのほやほや状態で作曲に挑んだだけあって、当時のゲームとしてはちょっと異質なタイプの音楽に仕上がった。
ところがオレのバヤイ、何の呪いか知らんが、気合いの入った仕事をすればするほど音楽がブッ壊れてしまうんです。マヂで。シオダサウンドのミステリーであり。

このゲームの音楽、実はサウンドドライバの仕様で、FM-TOWNSで作ったんです。
ナゼにTOWNS?と疑問に思いつつもマイ任務を完了したところ、このサウンドドライバを制作したプログラマが、ドライバの完成度が激低なまま開発途中で居なくなっちゃったという。
でも一応、完成した曲データを制作元のアルトロン社に送ってみたら、アルトロンの社長から「音が正しく鳴っているかどうか確認しに来て欲しい」との連絡が。
今思えば、社長、エライですよね。こーゆー外注とのやり取りって普通はプランナーあたりの担当なのに、自ら陣頭に出ていらっしゃる。スバラシイ社長です。
で、呼ばれて行ってみたんだけど、アルトロン社って変わったところでねえ。
まず、会社にお邪魔して一望したら、全員TOWNSを使ってんの。
プログラマもTOWNSだし、グラフィッカもTOWNSでドット打ってる。
ヒャー、エライTOWNS王国があったモンだなあ、と呆然と眺めていたら、あろう事か、NEWSっていう1000万もするコンピュータが部屋の隅に4台ぐらい放置されてると来た。
NEWSってのはスーファミサウンド開発用コンピュータとして任天堂が指定しているモノなんだが、そんな高価なモノはK社では当然買えず、オレが見た限り、ナグザット社や東セ社だってやっと一台しか買えていない。それを何台も持ち腐れているんだからショックだったっつーか、そんないいモンあるなら最初っからソッチでサウンド作らせてくれよってフツー思う。
そんな、アルトロンのミステリー。

軽ーくカルチャーショックを受けながら、早速音楽を聴かせてもらった。
前任の逃げたプログラマの時でさえイマイチな音でしか鳴ってなかったサウンドだったが、今回は音質が退化した上に音符データまで壊れてんだから、NEWS持ち腐れショックなんかもはやどーでも良くなった。
この際、しょっぱい音でもいいから、とりあえず音楽の体をなすレベルまで持ち直さねばと思って、後任のプログラマを紹介してもらったら、モロ外人さんだった。当然日本語まるでダメ。
社長は英語ペラペラだから(つーか、日本語よりも得意なんでは・・・)間に入ってはくれるんだけど、音楽的な話なんてただでさえ一般人に伝えづらいモノだ。
この場でいちいち伝えて修正してたら時間が掛かってしゃーないから、修正点を洗いざらいチェックして書き出して、ある程度その通りに直ったらまた改めて確認しに来る事となった。
帰りがけ、コーヒーを出してもらい、ちょっと社長と話をしたが「実はこの、サウンドドライバーは、シッパイサク、なんですよ」と英語訛りで云った。
まあ、どーしても無理なモンはしゃーないけど、とりあえず少しでもマシな方向へ修正しておきたかったから、オレは直す気満々なコメントを残して帰ったんだが、その後何の連絡も無いまま発売日が来た事をファミ通か何かで知った。
やっぱり結果が気掛かりで仕方なかったから、発売日に自腹で買って聴いてみたら、さらに曲が退化してたんだから思わず椅子ごとひっくり返ったという、まさかの昭和コントみたいなリアクションを取らされるっつー憂き目に遭った。

そのしばらく後に中潟さんと電話で話す機会があったんだが、何故か中潟さんはこのゲームの事を知っていてビックリした。
「音楽を聴いたけど、アレはちょっと・・・ヒドイねえ」なんて云われたんだが、そもそもどーゆー経緯でアルトロン社からサウンドの依頼が来たのかも不明だし、もしや中潟さんが仲介したとか、何らかのカタチで一枚噛んでいるのかな、とも思ってみたんだけど、それに関しては未だに不明だ。
中潟さんとアルトロンのミステリー。
でもオレ、その電話から数日後に偶然見つけちまった。
中潟さんトコのゲームのスタッフロールに、逃げたプログラマの名前が出てきたのをなー。

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