K社のグラフィッカーだったEさんってのが変わった人で。

Eさん、面倒だからイイヅカさんって云っちゃいますが、オレはこの人の絵が好きでねい。
絵心があるし、タッチも独特だし。
あれで高校卒業するまでほとんど絵を描いた事が無いってんだから、どんだけ天才なんだろうと。まさに井上雄彦さんの領域ですよ。
烈火のタイトルロゴとか、アイソの一枚絵のデモシーンなんかを描いてるのを見た事があって、ドット絵に起こす前に鉛筆でグチャグチャな線でイメージスケッチを描いていたんだけど、そんなのがいちいちカッコイイの。
あ、アイソってのはオレのデビュー作であるMax Warriorの事で、コレを作っていたある日、ステージ2デモ(Maxが女の人の幻影を見るシーン)のドット絵が完成したって云うからイイヅカさんのブースに見に行ったら、Maxと女が思いっきり全裸でやんの。
そんなん、任天堂がオーケー出す訳ねえぢゃんか。ホント訳のワカラン人です。
その時「さすが、芸術家のやる事は違うなあ」ってからかい半分で云ったら「いや、ワラヒは会社員だからさ、どこにでもいるような」なんてしゃあしゃあと云う。
そんな、100パーボツになる仕事を最後までやり切る会社員がどこにいるんだっつーの。
その一年後ぐらいに、以前云った納期まで10日しかないプロジェクトにブチ当たってしまって、誰もいないフロアに篭ってひたすら曲を書いてたらイイヅカさんが通り掛かって「さすが、芸術家は違うなあ」と逆襲してきた。だからオレも「いやあ、別に、フツーの会社員ですよ」って返事したっていう、そんな応酬がチョイチョイあったんですが。

イイヅカさんってカバン一つで引っ越しちゃう人で、じゃあ家具とか家電はどーするんですか?と聞いたら「面倒だから全部捨てる」だって。
いくらバブルの時代とは云え、さすがにそこまで豪快にやっちゃう人なんてまず居ない。
会社では当然「イイヅカさんが引っ越した直後のゴミ置場は狙い目だぞ」って話も出るぐらいだったから、オレは意地汚く引っ越しの日に車で出掛けて行って、家のモノを全部頂戴して揚々と引き上げるのかと思わせといて、全部新居に運んでやった。
イイヅカさんってのは、引っ越した時に内装も一新されるのがキモチイイ人だって知ってたから、オレがやった事は正直、イヤガラセです。まんまと古い家電や家具で新生活を迎えさせてやった。
ところでイイヅカさん、自分の部屋に他人を上げた事がないらしい。
K社で社長の次に偉いイノウエさんが「こないだイイヅカの家に行ったんだけどよ、アイツ、家に入れてくんねえんだよ。オレずーっと玄関でよー」なんて云ってたぐらいだから、オレは唯一イイヅカさんの部屋に入った男なのだ。

ある日、会社で使用していたCDプレイヤーが壊れてしまい、さすがに業務に支障が出るから、イイヅカさんからCDウォークマンを借りた。
この方、買い物に行くと店に置いてある一番高い物を買うのが癖で、そのCDウォークマンもFM/AMチューナーが付いていたという高級品だった。
そして、そんな高級品を惜しげも無く、他人に半永久的に貸してしまうという、掟破りの逆ジャイアンを敢行するんだから、やっぱりよくワカラン人だ。
ところがある日、社長がオレんトコへ来てそのCDウォークマンを触って以来、ウンともスンとも状態に陥ってしまったんだからさすがに参った。
いくら最後に触ったのが社長とは云え、オレが借りている間に壊れてしまったんだから、やっぱりオレが責任を取るのがスジだ。仕方なく謝りに行った。
つーか、正しくは、交渉しに行った。

「イイヅカさん、あのCDプレイヤー使わないんすか?」
「おう、使わないよ。ずっと持ってていいよ」
「だったらオレ、アレ買いますよ。スッゲー重宝してるし(嘘)」
「いや、いいよ、貸すよ。ワラヒ、人に貸してるっていう状態が好きだからさ」
こんな人です。訳のワカラン趣味ですよ。でもオレも食い下がる。
「でも、アレ欲しいんすよ、マジで。使わないんなら売って下さいよ」
「いや、だから貸しておくからさ、好きに使っていいよ。壊してもいいし」
「実は壊しちゃったんすよ」

グラフィッカーのみんな、仕事してるフリしてこのやり取りを始終聴いてやがったから社内ドッカーンだったんだけど、そんな中、あのイイヅカさんが珍しく一瞬だけ狼狽した表情をしたのをオレは見逃しませんでした。
どうやら、本気で一生貸しておきたかったらしい。悪い事をしたなあ。
で、結局「じゃ、社長が悪いって事で」なんて、いつものように飄々と云っておしまいだった。

MDが世の中に登場した頃、オレはポータブルタイプながらも光ケーブルでデジタルコピーまで出来るヤツを真っ先に買ったが、イイヅカさんも便乗して色違いの同じ機種を買った。
そしたら数日後「今まで作った曲を全部録ってくれ」なんて、オレのところに空のMDを何枚も持って来たから、仕事の合間を縫って全部録音してやった。
でもこんな人だから案の定、MDプレイヤーも逆ジャイアンの憂き目に遭う訳で、だったらオレの作品全集なんか持ってても仕方ないでしょ?ってな感じで半ば強引に奪還した。
で、その全集、先日部屋を掃除してたら奇跡的に出土しましてね。
全集と云っても、MDが発売になった頃の話だから、せいぜい90~92年ぐらいの分しか無くて、曲数としてもトータルの1/5程度しか無い。
試しに聴いてみたら音質が良くないんだけど、テープに録った曲がほとんどワカメ化しちゃってるのに対して、MDはそーゆー物質的な劣化が無いだけマシかも知れん。
な訳で、まあ、気が向いたらいくつか稚作を公開してみようかと思ったり思わなかったり。