我が家はとっても閑静な住宅街なのですが。

元旦の朝、実家が近所なので行こうと一歩外に出たら、そこには誰もいなかった。
人も全く歩いてないし、車も全く走ってないし、カラスも全く佇んでいない。
空を見ると雲も全く浮いてないし、飛行機も全く飛んでないし、カラスも全く旋回していない。
いくら閑静な住宅街とは云え、曲がりなりにも我が家は一応都内だし、こーゆーウルトラマンとかでしか見た事がないような、完っ全に街が死んだ光景が展開されるなんて夢にも思わぬ元日である。
そんなトコロへ、オッサンが一人立っているのに気づいた。
帽子にグラサンという姿ながらも少々ニヒルっぽい顔立ちで、ベンチウォーマーを羽織っている。
ところで人間、誰一人いない街にたった一人のオッサンを発見した時に感じるのは、安心じゃなくて胡散臭さなんだという事を新年早々に知った。
しかも、何を考えているのかこのオッサン、車道のど真ん中に仁王立ちである。
オッサン、セルかよ。レッドリボン軍の。
何だか、街じゅうの人間をエキスとして吸収シマシタ的な充実感を漂わせながら、股の下に書かれた車道の中央線の行く先をずーっと見ていた。
全くもって、不審極まりないオッサンである。
あんまり不審に思うあまり、オレも中央線を跨いだところでついオッサンと対峙してしまった。
オッサンとの距離、およそ30m。
10秒ほど視線が交錯したところで、まるで相撲の立ち合いのように、お互いくるりと踵を返して、各々の思うところへと散っていった。
途中で振り返ると、オッサンは大人しくバス停に並んでいた。セルでも普通にバスに乗るんかい。

まぁそんな感じで、新年を迎えた訳なんですが。

おめでたいはずの新年なのに、早速病院へ行った。
どうも、みぞおちの辺りが痛むのですよ。
3年ぐらい前だったかなあ、胃カメラを飲んだら逆流性食道炎だって診断されて、処方された薬を飲んでたら割と簡単に痛みがひいた事があったから、今回もまたソレであろう。
ただ、患部のあたりに今まで無かったしこりができているのが気になった。
みぞおち付近も実を云うと一年ぐらい前から痛みが再発していて、まぁ大した痛みではなかったから放っておいたんだが、半年ぐらい前に軽く痛んだ時に擦っていたら、何だか触った事のないポッコリを発見してしまったのです。
コレってもしや腫瘍?とか思ったんだが、それが今や倍ぐらいの大きさになっている。
いよいよもって、癌に倒れる時が来たか。
とりあえず生きる為の抵抗だけはしておこうと思い、病院へ行った。

オレが行ったのは総合病院なんだが、まず何科に行けばいいのかワカランところから開始。
受付では判断できず、救急班の看護士を呼んでもらったところ、うーむ・・・と考え込む始末。
「でもまぁ、しこりと云う事なので、外科ですね。外科なら内蔵も調べられるし」との事で外科へ行くと、思ったより全然空いている。
こりゃ意外と早く終わりそうだな、と思って外科の受付へ行き、今日はどうなさいました?との問いに答えたところ、また先方でシブイ顔をされた。
すると今度もまた、外科の看護士が登場。話をすると今度は「それだったら内科ですね」だと。
どんだけ人の事をタライ回せば気が済むのでしょう。

内科は2Fにあるから、階段を一段飛ばしで上る。それでいてオレはいっぱしの内科の患者ですって顔してんだから、病院がタライ回したくなるのも分かる気がする。
内科へ行くと案の定、患者でギッシリだ。人生そうオイシく話は進行しない。
受付にも人がいっぱいなので仕方なく並んでいると、本日の担当医が書かれた表が掲げてあった。
消化器担当医が誰々で、循環器が誰々と並んでいる中「血液 薄井」とあるのを見て心配になった。
血の気が濃い医者もヤだが、こーゆーどっちが患者なのかワカラン状態も勘弁だ。
基本的に3着までを当てる競馬の世界に「四位」というジョッキーがいるが、それに肉迫する勢いの不利名だ。
しかし幸い、オレの診察に当たったのは血液担当医ではない、美人女医だった。
ひととおり症状を話したんだが、「じゃあ横になって下さい」と云い残すなりカーテンを閉め、急いで受話器を取った。
「急患なので救急車の手配を大至急お願いします。搬送先は千代田区の・・・」
ショック。オレはやっぱり癌だった。しかも医者が初見で慌てる程の末期。
そしてオレはこのまま都心の大病院に搬送され、面会謝絶の入院生活が始まってしまう。
と思っていたら続けて「患者は100歳の方で・・・」だって。紛らわしいからそーゆーの止めれ。
電話が終わるとカーテンが開き「お待たせしました」と現れた。
そして、オレが気になっているしこりの部分に触れるなり云った一言が、また衝撃的だった。

「あ、これ、骨ですね。」

骨てー。41年間全く気づかなかった骨てー。今度は違う種類の大ショック。
そら美人女医が云う事だから間違いないだろうし、健康診断の結果を見ても何から何までバリバリの健康体に近い数値を叩いていたから、重い病気の可能性は激低なんだろうけど。
と、そこで一つ思い当たった。それは、最近ランニングを始めた事。
しこりが大きくなったのではなく、体回りがスリムになったせいで、今までよりも骨に触りやすくなったに違いないと。
恥ずかしい。わざわざ金と時間を使って恥をさらしに行ったようなもんだ。
一応、胃酸の逆流止めの薬を貰い、途中で止めずに継続して飲む様にと念を押され、それでも痛みが引かない場合は検査をしましょう、って事になって病院を去った。
家に帰ると、母ちゃんに思いっきし爆笑された。ナロー。
そんな、恥のかき初め。